HR諸元

HR-2000   HARD RACK MILL                *ハードラック工法 特許出願中

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諸 元
HR-2000
HARD RACK MILL MACHINE
3軸NCラック歯切盤
(ハードラックミル)

Summary
ラック&ピニオンにおけるラックギヤは耐久性向上のためにしばしば焼入れ処理される。
熱処理後にはひずみ処理のために仕上げ加工されるが、ほとんどの場合、砥石による研削加工に依存している。
焼入れ後のラックが研削加工ではなく切削での加工が可能になれば加工効率は格段に向上し、コストは飛躍的に削減される
ものと考える。
歯研ラックは耐摩耗性があり、騒音を低減し、発塵を減らせることができる。
その需要は多いにあると思うが、研削盤そのものが高価であり、研削工数とドレス工数に時間がかかりランニングコスト
(研削砥石やドレス砥石、設備室とクーラントの温調にかかる電気料)
など製品価格に、はねかえる要素が多い。したがって歯研ラックは焼入れしないラックに比べて価格は高くならざるを
得なかった。

高精度の焼入れラックが低コストで市場に投入できれば、これまで高価格であるという理由で採用できなかった焼入れラック
を採用するユーザーが増えるものと期待できる。
今回紹介する仕上げ工法はCBNカッタによる切削加工である。私たちはこの工法をハードラック工法と呼び日本において特許
を申請した。
またこのハードラック工法に使用するホブカッタの工具設計についても同じく特許を申請した。
この記事においてパート1)ではCBNの特性とラック切削に適するカッタ設計について、パート2)ではCBNカッタを使用
しての切削実験の報告を取り上げる。


パート1)-1 CBNの特性と断続切削について

 米国G・E社によって開発されたCBN(立方晶窒化硼素)は切削工具の進歩にめざましい革新をもたらした。
CBNはダイヤモンドに次ぐ高い硬度・熱伝導率を有し、さらに鉄系金属との反応性が低いというダイヤモンドには無い
特徴がある。
この材料性質からCBNは高硬度焼入鋼や、難削材などの切削に広く使われている。
ただCBN工具は従来、靭性に乏しいため衝撃荷重に弱く、断続切削に不向きとされてきた。
したがってCBN工具の活用データはそのほとんどが旋削であり、断続を
ともなった切削については試行錯誤が続けられているのが現状と考えられている。

 今回のハードラック切削に用いたCBN工具では主成分のCBNに特殊セラミック結合材を加え、超高圧高温下で焼結して
あり、CBN粒子の保持力が高いため、焼入鋼や鋳鉄などの切削において優れた耐摩耗性と靭性を有している。

パート1)-2 CBNホブカッタの設計について

 切削試験に向けて我々はCBNホブカッタ(以下ハードラックカッタ)を2種類製作した。
以下に2種類のハードラックカッタの仕様を記載する。

モジュール M3.0   外径 φ130  歯数 12  連数 1
モジュール M5.0   外径 φ150  歯数 12  連数 1

図 クリックで拡大


図1「カッタ全体」

1-絵.JPG


 構造はS45Cのカッタボデーに超鋼合金の基盤を2枚とCBN焼結体をろう付けしている。
超鋼合金の基盤は耐衝撃部材としてCBNチップに与える衝撃を和らげる役割をはたしている。

CBN焼結体はそれ自体で強断続切削に優れた特質を有しているが、カッタの工具設計によりその特質を最大限に引き出す必要
がある。最適な切削状況を作り出し、ランニングコストの面で安定した長寿命化を実現しなければならないからだ。
CBN工具による旋削データは数多くあるが、断続切削のデータが少ない現状にではこのハードラックカッタの工具設計について
は試行錯誤をしながら経験則にたよってその設計を繰り返した。  
それはまた切削条件との相関関係もあり幾通りもの工具設計をしなければならなかったがある程度満足できる切削結果と工具
寿命を確認できる段階にまで到達したと思う。

工具設計において特に重要と考えられるのはすくい角A、歯先角度Bおよび逃げ角Cの設定である。我々はこの数値を公開
できないが最適な切削を得られ、かつ良好な工具寿命を保持できる設計ができたものと自負している。


図2 カッタ詳細
2-絵.JPG


図3 チップ構成詳細
3-絵.JPG


パート2)-1 歯面焼入れラックの切削試験について

 焼入れ前のラック歯切加工の場合、通常使用する工具の材質は超高速度鋼やそれにコーテイングを施したものが多い。
今回のハードラック加工ではCBN工具を使用するので当然のことながら切削条件が違ってくる。
CBN切削においては、切込み量は0.03mm~0.3mmに限定され、切削スピードはV=100m/min~200m/minという条件が推奨されている。
歯面焼入れラックを加工する新機種ハードラックミルの仕様はこれらの切削条件を満たしており、また、CBN工具に衝撃が
かからないようスピンドルの剛性を高め、CBN切削での高速回転、高速送りに耐えるように機械の各スライドも十分な剛性と強度をもっている。

パート2)-2 モジュール3ラックの切削試験について

 モジュール3ラックの切削試験条件と試験結果は以下の通りである。

・テストピース
 モジュール 3.0
 製品寸法  幅×高さ×長さ 30×35×1000mm   (この切削長は約3.0mになる。)
 焼入れ 高周波焼入れ HRC53~57

・切削条件
 カッタ モジュール 3.0 シングルカッタ
 主軸回転数   500min-1
 切削送り速度  600mm/min
 切込深さ     片歯面 0.2mm

・試験結果
ハードラックカッタによる切削は良好に出来た。加工後のピッチ精度及び歯面の面粗度は下の表に表した通りである。
また今回のモジュール3ラックの切削試験では累計切削長600mでカッタ刃数12枚のうち1枚にチッピングが発生したが、
そのまま切削を続行したところ累計切削長約700mでチップ破損が見受けられた。

・ピッチ精度
 単一ピッチ誤差 5.7ミクロン
 隣接ピッチ誤差 5.4ミクロン
 累積ピッチ誤差 27.3ミクロン

図 クリックで拡大


表1 モジュール3ラック 加工精度
(ピッチ精度)


表2 モジュール3ラック加工精度
(面粗度)


表2 モジュール3ラック加工精度
(面粗度)

4-モジュール3ラック 加工精度(ピッチ精度).JPG
5-モジュール3ラック加工精度(面粗度) .JPG
6-測定 .JPG


パート2)-3 モジュール5ラックの切削試験について

今回テストカットしたM5のワークの切削も問題もなく出来、そのピッチ精度および面祖度は以下の通りである。


表3 モジュール5ラック加工精度
(ピッチ精度)


表4 モジュール5ラック加工精度
(面粗度)


表4 モジュール5ラック加工精度
(面粗度)

7-モジュール5ラック加工精度(ピッチ精度).JPG
8-モジュール5ラック加工精度(面粗度).JPG
9-モジュール5ラック加工精度(面粗度).JPG




パート2)-4 研削加工と切削加工の加工時間比較

 次にラック研削とハードラック切削との
 加工時間を比較してみる。

10-加工時間比.JPG

パート3)-1 結論

 焼入れ後のラック仕上げにおいてハードラック工法はその精度においてはラック研削にひけをとらず、生産性においてはサイクルタイムが約1/10に短縮されることが検証された。
ラック研削盤はワークと砥石が常時接触している。研削で発生する熱を外部に逃がす目的と砥粒面に付着したスラッジを除去する目的で多量の、温度調節された高圧(5Mpa)クーラントを吐出させる必要がある。

一方ハードラック工法においては高速回転するホブカッタで断続切削されるために、発生する切粉が熱をすばやく外部に逃がしてくれる。
したがってハードラックミルの場合は通常のクーラント装置(0.5Mpa)で事足りる。
また、恒温のクーラント液を高圧で吐出する場合、安全という理由以外に機械外部をクーラント液の飛散から保護する全面カバー
が必要になる。
通常のクーラント装置であれば液の飛散防止は左程おおがかりなものにはならず安全面で考慮されたカバーの設計で十分である。

研削盤での研削精度を保持するため光学式スケールを取り付け、クローズドループ制御を行うことが多い。
今回のハードラック加工試験では光学式スケールを用いなくても、通常のボールネジにNCピッチ補正を行なって切削することによって高精度のラック加工が可能であることが検証された。
研削盤に必要とされるドレス装置はハードラック工法では必要がない。
研削用スピンドル(Max 5,000回転)とハードラックミル用切削スピンドル(Max600回転)の製作コストを比較するとやはり研削スピンドルが高価である。
これらの理由により設備の導入費用はハードラックミルのほうが研削盤よりはるかに廉価である。
これは設備償却費としてラックの製品価格に転嫁される。

パート3)-2 今後の課題

高価なCBNをホブカッターに選定しているため工具費は高価にならざるを得ない。またソリッドタイプのホブカッターの研削には高度な技術が必要なためユーザーでの再研削は困難である。
したがってユーザーは予備のカッタを持つ必要がある。
ユーザーサイドでは在庫のためのコストが上がり、時間的にも不経済である。

これを解消するためにはスロアウエイ式のチップとカッタボデーの開発が必要不可欠であると考える。
我々は近々にこの方式のカッターを提供できるよう開発を進めている。
また熱処理技術と焼入れに伴う歪取技術の向上もハードラック工法でのコスト削減には重要な要素になる。焼入れが不均等で
あったり熱処理ひずみが大きく曲がりが矯正できないと、それだけ切削代が多くなり切り込み回数が増えることになる。すなわち加工時間が増えコストアップの要因になる。

ハードラック工法は世に出たばかりで、メーカーサイドのテストには限界がある。
ユーザーサイドで大量に製品を切削しながらデータを蓄積し、それがメーカーにフィードバックされて、さらにこの工法がより完成形になってくるものと期待している。



参考文献
1. Y Kuroda,A Kukino、M Goto
“ソリッドCBN焼結体工具BNS800の開発”
SEIテクニカルレビュー 第162号 2003年3月

 著者: 冨岡 芳和
 斎国製作所 チーフ エギュゼクチブ エンジニアリング
      ラック歯切盤とラック研削盤の設計に長年たずさわった。
      アメリカ グリーソン社が基本設計したスパイラルベベルギヤ用のステックブレード研削盤
      BPGの改良設計をグリーソン社と共同で行ってきた。
      電子工学科終了 東京電機大学in Tokyo